警視庁が2016年に発表した「自転車事故の推移」によると、自転車運転中の交通事故発生件数は年間90,000件以上にのぼります。また交通事故総合分析センターでは、自転車運転中の加害者数は、13~18才の子どもが最も多いと発表しているのです。(「交通事故分析レポート」)
「自転車運転中に車との事故にあってしまった」「自転車にのっていた子どもが、歩行者にケガをさせてしまった」
そんなもしもの事態にそなえて、自転車保険への加入を検討してみませんか?
今回は、自転車保険の補償内容や加入の必要性といった概要から、ご自身に合った自転車保険を選ぶためのポイントまで解説します。
目次
自転車保険とは
自転車保険とは、自転車事故で「相手にケガをさせてしまうリスク」「自分が傷つくリスク」のふたつをカバーする補償がセットになった保険です。なかには自転車事故以外の補償にも対応可能なものもあるなど、各保険サービスによって補償内容はさまざまです。
まずは、主な補償内容をチェックしてみましょう。
保険の補償内容
個人賠償責任補償
個人賠償責任補償とは、あやまって人を傷つけたり、人のものを壊したりして「法律上の賠償責任を負った場合」に保険金が受けとれるものです。
たとえば「自転車にのっていて事故を起こし、相手にケガを負わせてしまった・死亡させてしまった」場合、またそのほかに「買いもの中に子どもが商品を壊してしまった」「散歩中に飼い犬が歩行者にケガをさせてしまった」場合などにも補償が受けられます。
傷害補償
人を傷つけた、ものを壊した場合に適応される個人賠償責任補償と対になる傷害補償は、自転車事故によるケガで通院・入院をしたときや、後遺障がいを負った、もしくは亡くなったときに適用されます。受けとれる保険金はサービスによって異なりますが、主に以下のようなものがあります。
- 入院保険金
- 入院一時金
- 通院保険金
- 死亡保険金
- 後遺障がい保険金
そのほか
補償の軸となる個人賠償責任補償と傷害補償のほかに、示談交渉サービスやロードサービス、車両盗難特約など、自転車にまつわるさまざまなトラブルに対応する「付帯サービス」が付いている保険もあります。
加害事故を一度起こしてしまうと、賠償問題を当事者だけで解決するのはなかなかむずかしいもの。そんなときに、問題の解決に向けて保険会社が交渉を代わりに行ってくれるサービスを示談交渉サービスといいます。
またロードサービスでは、事故や故障で自転車が走行できなくなった場合に無料で搬送してもらえるほか、車両盗難特約では自転車が盗難被害にあったときに保険金を受けとることができます。
自転車保険の加入が義務化されている地域も
自転車による重大事故で高額な賠償金を請求されるケースが後をたたないことを背景に、被害者を守り・加害者の経済的な負担を減らすべく、自転車保険への加入義務化の動きが生まれました。
2015年10月に兵庫県が全国ではじめて自転車保険加入義務化を決定。そこから義務化を進める自治体が増え、2021年4月1日時点で以下の都道府県が加入促進に取り組んでいます。
条例の種類 | 都道府県 |
義務 | 宮城県、山形県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、愛媛県、福岡県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 ※上記のほか、政令指定市では千葉市、岡山市において業務条例を制定済み |
努力義務 | 北海道、青森県、茨城県、千葉県、富山県、和歌山県、鳥取県、徳島県、香川県、高知県 |
(引用元:国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進」)
加入が「義務」と定められた多くの自治体では、加入率が高まってきています。自治体の取り組みによって、加入の必要性が広く理解されてきていると言えるでしょう。(参照:国土交通省 「自転車事故の損害賠償に係る現状について」)
自転車保険に加入しないとどうなる?過去の事例を紹介
自転車保険では自転車事故をはじめとしたトラブルをカバーする補償が受けられます。では、自転車保険に加入しないとどうなるのでしょうか。
ここからは、自転車事故にまつわる賠償問題の事例を2件ご紹介します。
9,521万円の損害賠償金となった加害事故例
当時11才の男の子が、夜間に歩道と車道の区別のない道路を自転車で走行していた際に、歩行していた62才の女性と正面衝突。女性は頭の骨を折るなどし、意識が戻らない状態になってしまいました。
神戸地方裁判所は、子どもの母親に対して9,521万円の賠償を命じています。
この事故と判決では、「子どもが起こした事故について、非常に高額な賠償金の支払命令が母親に対して出された」点が大きく報じられ、話題になりました。子どもの自転車事故は、親が責任を負う可能性があることも覚えておかなくてはなりません。
9,266万円の損害賠償金となった加害事故例
男子高校生が昼間に自転車で道路を走行。自転車横断帯よりもかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、反対車線を自転車で直進していた当時24才の男性会社員に衝突しました。被害にあった男性には、言語機能の喪失など、重いな障がいがのこり、東京地方裁判所は男子高校生に対して、9,266万円の賠償を命じています。
たとえ昼間の時間帯であっても重大な自転車事故は起こり得ます。
またあくまで目安ではありますが、13才頃になると、子どもであっても責任能力があるとみなされて賠償の責任を負う例が多数あります。
未成年の子どもが自転車事故を起こし、本人や親が多大な賠償責任を負った事例をご紹介しました。
自転車保険に加入せずにこのような損害賠償責任を負うと、非常に高額の賠償金を自費で支払わなければいけない場合が生じます。また示談交渉も当事者同士で行わなければならず、話がまとまらずにトラブルに発展する場合も。さらに弁護士などを巻き込むような事態になりかねません。
「自転車」「子どもの運転」というと、“車と比べれば弱い立場”のようなイメージがあるかもしれませんが、他人の大切なからだや命を傷つけて多大な責任を負う、重大事故の加害者になってしまう可能性は十分にあります。このことを忘れず、万が一に備えて自転車保険に加入するようにしましょう。
自転車保険の選び方のポイント3つ
自転車事故などのトラブルをカバーする保険には、さまざまな種類があります。「必要性はわかるけれど、どうやって選べばよいのか迷う」という方も多いですよね。
そこで、適した自転車保険が見つかる選び方のポイントを3つにまとめました。ひとつずつ見ていきましょう。
必要な補償内容を確認しよう
まずは必要な補償内容を確認します。とくに注意しておきたいのは「個人賠償責任保険の保険金の支払い上限額」と「自分のケガへの補償内容」です。この2点は加入によって得られる安心感と、毎月支払う保険料に直結します。
自転車事故を起こした場合、ときに数千万円を超える大きな賠償額がかかる場合があるため、賠償責任補償が手厚いものを選ぶと安心です。自身のケガへの備えについては、死亡・後遺障がい時にのみ補償を受けられるものや、入院・通院時に日額で保険金を受けとれるものなどがあるため、どこまで備えるべきかを考えてみましょう。
ただし、個人賠償責任補償は火災保険や損害保険の特約に、傷害補償は医療保険や死亡保険の補償内容に、すでに含まれている場合もあります。自転車保険に加入する前に、自分が加入している保険の補償内容を確認しておきましょう。
また、示談交渉サービスは付けておいた方がよい補償のひとつといえます。このサービスが付いていない場合は、当事者どうし、もしくは弁護士に依頼して示談交渉を行う必要があり、多くの労力と費用がかかります。
保険の適用範囲を確認しよう
すでに加入している火災保険や傷害保険、医療保険などに自転車事故に対する補償が含まれていたとしても、「子どもは保険適用範囲外」とされている場合もあります。自転車にのる子どもがいる場合は、ご自身の保険の補償内容と合わせて、適用範囲も確認しておくようにしましょう。
もし加入している保険が子どもを適用範囲外としているのであれば、被保険者のみを補償対象とする「個人型」自転車保険に子どもを加入させたり、被保険者の家族までカバーできる「家族型」自転車保険に親が加入したりする必要があります。
家族型自転車保険を選ぶにあたっては、サービスによっては被保険者以外の補償範囲が被保険者と異なる場合もあるため注意してください。
補償の対象外となるケースを確認しよう
個人賠償責任保険には補償の対象外となるケースがあるため、あらかじめ確認しておきましょう。補償の対象外となる主なケースには、以下のようなものがあります。
- 業務に起因する自転車事故による賠償
- 同居する親族に対する賠償
- わざと事故を起こした場合の賠償
まとめ
自転車事故で起きた損害を補償してくれる自転車保険。名前だけは知っていても、その補償内容や加入の必要性までご存知の方は少ないかもしれません。
しかし、ご自身や子どもが自転車事故によって大きなケガをしたり、させてしまったりする可能性は十分にあり、加害者となれば大きな賠償責任を負うことになります。いざというときのために自動車保険への加入はおすすめです。
自転車保険に未加入でも、現在入っている保険で十分カバーできる場合もあります。大切なのは、自分がいま加入している保険の補償内容と適用範囲を明確に理解し、いざ自転車事故が起こったらどの程度リスクがカバーできるかを知っておくことです。不足がある場合は、今回ご紹介したポイントをふまえて自転車保険を選び、もしものリスクに備えておきましょう。
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